意志に属したい日記

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する(アラン)

《読書記録》『末期ガンでも元気です』

 

 闘病記、というものが実は苦手だ。その人の身体の性質や置かれている環境によって症状や副作用のみならず、心の持ち方や治療への方針などあらゆることが違うであろうに「○○という病気は△△になりがちなので」とか「□□という治療法は怖いと思われているがそんなことない」云々、あくまで「パーソナルな体験」を規定事項のように語られるのがどうにも落ち着かない。

 また、死を意識して内省的になるのはわかるが、家族への感謝を綿々と綴られても「いや、あなたのご家族を存じ上げないので……」と困惑するし、スピリチュアルなことを説かれても「あなたがそれに救いを求めるのはわかるが、それは『あなたの』救いであって私のではない」と感じる。

 なのでこの漫画も最初、買うつもりはなかった。しかしレビューにあった「親からの虐待サバイバーが持つ入院でのデメリットがしっかり書かれていてよかった」という文言に興味をもった。私も(作者とは異なるタイプだが)虐待サバイバーである。

 いざ読んでみると、思った以上に参考になった。なぜ虐待サバイバーが入院に際しデメリットがあるのかもわかったし、闘病中に言われて「嬉しかったこと/嫌だったこと」や、虐待サバイバーなら一度はある、虐待をカミングアウトした時に傷ついた相手の言葉の具体例があった。これらはガン患者とその周囲だけではなく、「自分には関係ない遠い世界と思っていたことが実は身近にあった」と知ったときの対処にも応用できるだろう。

 この漫画は徹底して「同じ境遇の人やその近しい周囲の役に立つように」描かれていると感じた。だから随所に「あくまでこれは自分の場合なのでご自分の主治医に聞いて」と書いてあるし、感謝の言葉は長々と主張していないし、ましてやスピリチュアルなことなどは一切描かれていない。

 作者の夫はうつ病を患っているらしく、自身のガンが判明したときにそのメンタルケアにまで気が回る作者はとても冷静で観察眼の鋭い人だったのだと思う。2022年12月に永眠されたそう。合掌。