《読書記録》『ゼロからトースターを作ってみた結果』
まず「ゼロから」のレベルが想像を超えていた。「鉄鉱石を探しに行くところから」なのだ。
著者は「店で売っているような」トースターを、「土から掘りだされた状態の原料」から作った部品で、「産業革命以前に使われていたものと基本的に変わらない道具」で作ることを大学の卒業制作に選ぶ。そこから生まれた悲喜劇、ときどき紀行文といった体だ。
この本の表紙にある、ちょっとグロテスクにも見える黄色い物体、これがトースターだなんて思うだろうか。でも紛れもなくこれは著者が作った「トースター」である。
若さゆえの面倒くさがり、傲慢さ、無計画さを遺憾なく発揮しつつも、目標を達成しようと奮闘する姿は爽やかですらある。そして「現代資本主義の軌跡の一端を垣間見」たという境地にまで達する。
この試みは「僕らがどれだけ他人に依存して生きているかということを教えてくれた」と作者は言う。そう、忘れてはいけない、我々は一人ではゼロからトースターを作ることすらできないのだ。
くだらないことを真剣に行えば、真理に近づける。この本は、頭でっかちではない”手作業”での文明論、科学論として説得力を持っている。